朕は猫である(1) 朕は猫である。 朕の真珠のような純白の毛皮はしなやかで絹のように皇かである。体毛が真珠なら目は黒曜石だろうか。朕の瞳は覗けば誰をも虜にしてしまう魅力がある。 朕は高貴な猫である。だが、真実を言うと朕は人間である。 もう一千年以上前の話である。 人間であった朕は偉大なる王を父に持つ皇子であった。 今はどういうわけか倭国へと渡ってしまったが、朕の生まれし国は今で言う東洋の南に位置するまだできたばかりの小さき国であった。 偉大なる父王は腐敗した国を見限り新たなる国を作り、何万人もの家来を従わせた。 皆が父を尊敬し、父に憧れ、その光は朕にも恩恵を与えた。 朕は好きな女を傍に置き、国政を悪戯に乱し、飽きては全てをなかったことにしたりした。 父王はそんな朕を諌めたが、やがて病に伏せるようになると朕に逆らうものはいなくなった。 そんな日が続き、朕はある時に鏡返しを受けた。 鏡返しとは朕の生まれた国で伝わる呪いの一種である。 悲哀、憎悪といった負の感情を鏡を媒介に詰め込み、最初に鏡を見たものを不幸にするという呪い。 朕が悪戯に弄び捨てた隣国の幼い姫。彼女は病に倒れのちに亡くなったらしいが、その母が朕に鏡を送ったと言う。 朕がその鏡を覗き込んだ瞬間、朕は猫へと姿を変えられた。 真に人に傅く(かしずく)まで未来永劫猫のままである。そう鏡に映った猫は言い放ち、不敵な笑みを浮かべた。 そのような経緯で、朕は長い間この美しい猫のままであることを強いられた。 しなやかな肢体と滑らかな毛並み。 最初こそ朕もこの姿に変えられたことに憤りを感じたが、今ではもう自分の姿を気に入っている。朕の精神は強靭なのだ。 *** 朕の棲む公園は近くに学び舎がある。学生というものはいともたやすい生物である。 猫に餌を与えるなという看板の前でいくらでも餌にありつける。字もろくに読めない愚かな生物だ。 もちろん朕は元は皇子である。 誰にも傅く必要も無い。気の上から彼奴らを見下し、餌を落とすのを待つ。 彼奴らは朕の美しい姿を見るだけで、狂喜乱舞し、きゃめらをバシバシと写し、餌を置いていく。 朕が誰かに傅く日など来ないだろう。朕はこの世の猫で最も美しい猫だと自負する。 そんなある日である。 朕はその日も背骨に杉でも埋まっているかのようにシャンとした風貌で美しく歩いていた。 「あ、猫だ! かわいい!」 途端に朕の美しさに見惚れた女子高生が朕を取り囲む。朕は即座にその横にあった木の上へ飛び登った。女子高生達は 「あ、登っちゃった〜」 と残念そうに朕を眺める。女子高生達の手にはくれーぷがあり、朕はそれを一心に見つめた。 「猫ちゃん、これが欲しいのかなぁ」 そうじゃ、それが欲しいのじゃ。朕の目が光り、尻尾が揺ら揺らとリズムを刻む。 そのまま見つめ続け、女子高生達が手を伸ばした瞬間、朕は脚に力を入れた。枝が大きく揺れる。 「キャッ」 朕はくれーぷめがけて一瞬で飛び降り、それを奪うようにして銜えとるとまた木の上へと登った。 「ゆか、大丈夫?」 「うん……手の甲がかすっただけ」 きらりと朕の爪が光に反射して光る。 女子がクスンとすすり泣いた。朕より美しくない女子なんて同情するにも値しない。そもそも朕より美しい女子なんて見たことさえも無いが。 朕は「ニャーゴ」と誇り高く鳴いた。勝利の一声である。 女子たちは「もういこっ」と声を掛け合い、公園から出て行った。全くあれしきのことで傷つくとは愚かな子供だ。 そんな風に嘲りながら、くれーぷを貪る。生クリームが朕の髭にべとつくのがどうにも嫌だが、それでも美味は美味である。 「あーあー、凶暴な猫だな」 ふと、足音に気づく。次の獲物が来たのかと思い、朕は目を光らせた。 今度は図体の大きな男だ。薄汚れたすにーかーを履いて、やぼったいぱーかーとみりたりーじゃけっとを二重で着ている。黒髪の短髪で露出している額など、特にひっかきやすそうだと朕は思った。 朕はスンと息を吸い込むと、前かがみになり男を見つめた。 男の手には歪な握り飯があった。白米が久々に食べたいと思っていたところだった。 (もう少し近くに来たら……) ジリジリと近づくと、男も鋭い視線で朕を睨み付けた。朕はたとえ獲物がどんなに体躯が大きくて凶暴であっても引かない。 そうだ、朕は国の皇子だった。朕にさからうものはいなかったのだから。 男の足が一歩下がった。その瞬間、本能的に朕は飛び出していた。逃げるものを追いたくなることはもはや猫の習性かもしれない。 朕が鋭利な歯をみせながら、男の手元に噛み付いた。 (え) その瞬間、ふわっと何かが朕の肢体を包んだ。 甘い香ばしい香り。時間軸が変わり、宙を浮きながらもふわふわと水の中を這うような感覚になる。 途端に朕は地面に崩れた。腰が砕ける。たまらない。気持ちよい。なんなんだ、この香りは。 「お、にゃんこ? どうした?」 角張った手が朕の腹をまさぐる。どうしたもこうしたも無かった。 嫌じゃ。朕はそんなところを触られとうない。朕は誰にも従わないのに。 けれど、体が言う事を利かないのだ。朕は自分の声とは思えないねだり声を出した。 にゃーご。ごろごろ。ごろごろにゃーん。 男に腹を出して、もっとと強請る。 ありえてはいけない、こんなことは。 朕は皇子なのだ。 朕に逆らうものなんていないのに。 朦朧とする中、朕はそのまま意識が遠のいて、暗闇の中に落ちていった。 *** チュン、チュンと鳥の声がする。あれは雀の鳴き声だ。 猫になってからと言うもの、鳥という生き物はどうにも朕の興味をそそるようになった。 そうだ、今日は一日雀と追いかけっこをしよう。 そして鳥を捕まえた暁には羽をむしりとり、丸裸にして遊ぼう。昨日の屈辱的な想いが和らぐに違いない。 ん? 昨日の屈辱的な想い? 楽しい夢を見ていたはずが、朕はガバッと飛び起きた。 天井があるのだ。ここは室内である。おかしい、朕のいつも寝床にはクチナシの葉が植わっている。夜に良い香りを楽しみながら床につくのが朕の楽しみなのである。 けれど、今朕がいるところは公園でもクチナシの木の根元でもない。 朕は家屋の中にいた。 家屋の中の寝台の上である。そして、隣にモソリと誰かが寝ている。 たわしのような頭がもさもさと動き、朕はヒッと悲鳴を上げた。 まさか、こやつは昨日の男ではないか。 朕はこやつと共に同じ寝台で同じ夜を過ごしたと言うのか。 昨日以上の屈辱に朕はメラメラと瞳の奥を燃やした。 喉を噛み切ってやる。 猫の歯は鋭利だ。もしかしたら、人一人くらい簡単に殺せるかもしれない。朕は唇を上下に伸ばし、歯茎を露にした。 殺してやる。こんな人間。朕にあのような屈辱的な格好をさせるとは死に値する。 そう、喉に歯を当てた瞬間。 「いて」 男がたいして痛そうにない声を出した。 男が目をぱちりと開ける。朕は呼吸が止まった。男と目があってしまった。 「おまえ」 嫌な予感がした。 男の目線がやけに高い。 朕は自分の歯に触れた。 歯が尖っていないのだ。指で触れてみて、驚いた。まるで人間のそれのように平らである。 指? 指だと? 朕に指など動かせないはずである。 なのに、何故こうも長く細やかに指が動くのだろうか。 朕はおそるおそる、部屋を見渡した。姿見を探すと、部屋の隅に縦に長いそれが置かれていた。それを朕は寝台の上から覗き込んだ。 「……人間に戻っている」 おのずと口が動いた。久々に発した人間の言葉だった。 鏡の向こうには美しい白皙の青年が生まれたままの格好でこちらを見つめていた。切れ長い目やスッとした鼻、整いのとれた顔立ちを見てもあれは人間だった頃の朕である。 生きた白磁人形と呼ばれていた頃の朕である。 だが、あの頃の朕とは明らかに違う箇所もあった。 髪と耳と髭と尻尾。一体どういうことなのだろうか。 人間だった頃の朕には髭などと言う汚らわしい毛根は存在しなかった。何も処理せずとも常に皇かな肌が露となっていた。 ところが、今の朕には長い髭が伸びすぎたすすきのようにピョンピョンとはねている。 人間の髭ではない、猫の透明な髭である。 そして、朕が猫であった頃と同じ真珠のような色をした髪の毛。本来の朕は黒よりも美しい漆黒色の髪色をしていたというのに。そしてその白髪から生えた耳もまた猫の時と同じものである。 なんとも珍妙な格好だ。人間であるところがあったり、猫であるところがあったりと実に屈辱的である。 何より、この尻から生えた尻尾の滑稽さよ。 朕はしおしおと足元から崩れた。 恥ずかしい。なんという恥ずかしい格好なのじゃ。 朕はもう二度と人間には戻らないと思っていたのに。 朕が人に傅く日など来るなんて思わなかった。 とはいえ、昨日の朕は確かにおかしかった。 顔もあの程度であり、王の才覚もなければ、何か光るものを見たわけでもない。あの男はただ少し背の高いだけのいもくさい男であった。 なのに、朕は全身の力が抜けて、足でしかと立っていることも難しかった。朕は腰砕けであったのだ。あれは朕にとって初めての経験であった。 あれが人に傅くということなのだろうか。 だとしたら、人に傅いたはずの朕は何故完全な人間に戻れないのだろうか。 朕の頭がグルグルと回りに回る。 朕はもともと策略に長けていない。そういうものは大臣たちや将軍がするものじゃ。朕はただ今の格好が恥ずかしくて、初めて死にたくなった。 朕にこうまで思わせる鏡返しの呪いは本当におそろしいものじゃ。 朕は鼻をすすりながら布団を頭からかぶった。 「お前、まさか昨日のにゃんこか」 ふと声に気づき、朕は布団から目線だけ移した。男が起きていた。ぱちくりと朕の方を見ている。朕は全身総毛立った。 「おのれ、お前のせいじゃ!」 涙目で奴の上に飛び乗った。奴の腹にのっかかると、奴の頬を何度も殴った。 しかし、拳に力が入らない。長年猫をやっていたせいで猫の肉球のような拳しか繰り出せない。 「ちょ、いてーって。 猫パンチやめろって」 男は動じない様子で朕の手首を掴んだ。 その瞬間、朕の頬から涙が落ちる。朕の涙を見るなんてこの男大罪人につき死刑にしてくれる。 朕は孤独な王族じゃ。朕の涙を見ていいのは生涯の伴侶だけじゃ。 「いや、いきなり猫から人間になってお前も大変だろうけど……」 「朕はもともと人間である!」 男は目を瞠った。 「へぇ……」 反応が薄くて朕は心底がっかりした。布団をかぶりなおして、朕はワンワンと泣いた。猫人間なのにワンワンとなく朕の滑稽さよ。 こんな姿になるくらいなら死んだ方がましだというのに。 朕は死ぬ術など知らない。朕は楽しく面白く生きられればそれで良かったのじゃ。 男はしばらく朕のかぶった布団をさすっていたが、いくらか経つと夏の夜よりも長いため息をついた。男は朕の布団を開けようとすることもやめてベッドから降り、そのままどこかに行ってしまった。 慰めることさえもままならないなんて、なんという根性なしである。腑抜けである。 朕が布団の中で怒りを倍増させていると、また足音が戻ってきた。 クンクンと暖かい甘い匂いが朕の鼻をついた。 これは朕が大好きなものである。 こやつ、朕の大好きな「ほっとみるく」を持ってきおった! 「みるくじゃ、みるく」 朕がひょこひょことが顔を出すと、男は「ほら」と言って陶器の器を朕に持たせた。男は少しだけ口元の両端を上げた。無礼な奴である。朕の飲む姿をこうも直視してくるとは。 それでも朕はみるくの誘惑には勝てなかった。 クンクンと鼻を近づけると、力が抜けていく。 「あ、しまった」 男が何かを行ったが、朕には聞こえなかった。 ふわふわと雲の上に横たわるような心地である。朕は仙人にでもなったのであろうか。体が軽くて、気持ちが良くて。 朕はまた無意識におねだり声をあげていた。 にゃーん。ごろごろごろ。 そうじゃそうじゃ。朕はきっと仙人になったのじゃ。雲に乗ってどこまでも行くぞ。鷲も鷹も朕の速さにはついてこられまい。 朕は仙術で空を飛んでいるのじゃ。 朕はとにかく楽しい気分で寝台の上を転がった。 にゃーーん、ごろごろ。 「ったく怒ったり泣いたり笑ったり忙しい奴だな」 まるで大地の母に抱かれているような寝心地であった。 大きな無骨な手に抱かれて朕はまた一眠りついたのだった。 *** 暖かな日差しが降り注いでいる。 簾でこした優しい光を当てられているような心地である。 ふと目を開けると、寝台で寝ていたはずの朕はもう一つの部屋でごろりと寝かされていた。ご丁寧に服を着せられ、分厚い布をかけられていた。 朕は着せられている服のニオイを嗅いだ。 くさい! なんていう匂いだ。どこがくさいと言われるとそれは男特有の汗や体臭で、とにかくくさい。昔に兵舎に興味本位で行った事があるが、それと似ている臭いだ。朕のどこか香気のあるそれとは大違いである。 朕は「あー嫌じゃ嫌じゃ」と言いながら、その服をポイポイッと脱ぎ捨てた。 「あ、こら」 やっと朕の目覚めに気づいたのか、男がベランダから部屋に侵入してきた。外で洗濯物を干していたようだ。この部屋はどうやらこの男一人で住んでいるらしい。 「なんで脱ぐんだ」 「くさいからじゃ」 男の目を見て言うと、男は目を何度か瞬いた。 「……ちゃんと洗っているのに」 朕の脱ぎ捨てた服を拾って匂いを確かめる。「くさくねーじゃん」と男は首をかしげた。 「朕は香りには敏感じゃ。 もっとくさくない服をもて」 朕がそう言うと、男は面倒くさそうに朕に何かを投げつけた。 「何をする無礼者」 「まだ洗って干したばっかりの服だ。 それ以上くさくない服は俺は持っていない」 朕の手に新しい服が献上される。朕はその匂いをそろりと嗅いだ。そして目をつぶり、口を噤んだ。なんていうことだ、やはり臭い。 「えーい、これはお前の体に染み付いている臭さじゃ。 貧乏臭い貧民の臭いじゃ」 こんなものを着れというのか。 そうクチに出そうとした瞬間、じろりと男に睨まれた。 「貧乏で悪かったな」 「朕をそんな怖い顔で睨むな、無礼者!」 将軍顔負けの殺気を感じながらも朕は叫び返した。朕は怖いもの知らずの皇子である。 だが、これ以上争っても無駄な事は分かった。当面はこの汚い布キレで我慢するしかないだろう。朕は息をとめながら、その衣服を一気に頭からかぶった。絹でないものなんて着るのが久しい。むしろ初めてかもしれない。このざらついた感触では朕の皇かな肌が傷ついてしまわないだろうか、と不安になった。 「お前のせいで朕はこんな目にあってるのじゃ……」 突然シュンと心細くなった。 このような半妖のような格好で、時代の違う人間の生活。朕にそれが今更できるのだろうか。しかし、朕は王族である。そして王族とは常に孤独なものである。朕は男に隠れて涙を拭いた。 「男。 お前はどのような術で朕を傅かしたのだ」 朕が顔をあげると、男は「あ?」と眉をひそめた。皇子に対してなんじゃその態度は!とは思ったが、朕は考えを改めた。 この男は朕の言葉も分からぬ異邦人だと思えば良い。敬語も主君への忠誠心も異邦人なら覚束ないのも仕方ない。 朕は思慮深い大人である。 「朕をめろめろにしおったろ? 何をしたのだ、男」 この国の俗な言葉を使って、男に問いかける。男も「ああ」と合点がいった様子だ。 「お前はマタタビ酒の香りにやられたんだ」 「マタタビ酒?」 男が頷く。朕が眉を寄せて、男の方を見ていると男はベランダから何かを取り出した。その瞬間、全身から骨を抜き取られたように力が抜けた。 「果実酒みたいなもんだ。 俺が趣味で作ってるんだ。 昨日はちょうど一瓶漬け始めたところだったから手に香りが残っていたのだろう」 蓋を開けずとも魅惑的な匂いがする。朕は慌てて「見せなくてもよい!」と叫んだ。またあんな腰砕けになるのは耐え難い屈辱である。 男は酒を元の位置に戻すと、また視線を朕の方へと戻した。 「さっきもいつもこの酒を飲んでるコップで渡しちゃったからな。 香りが染み込んでいたのだろう」 朕は不満げに男を見た。 たかがマタタビである。なのに、朕には猫の習性が深く残っているようだ。 マタタビはどんな猫をも傅かせる。 朕は別に心からこの男に傅いたわけではなかった。ただ体だけが本能的に傅いてしまったのだ。 だからであろうか。 このような半分猫でありつつ半分人間であるような姿へと身を変えてしまったのだろう。 しかし、それが分かったとは言え、現状を打破するものにはならない。 朕が猫に戻る事はもう無いだろう。しかし、だからといって完全なる人間になる事もありえない。朕が心から傅くなんて愚かな真似をするはずがないのだ。 朕はこの中途半端な姿のまま今生を生きていかないといけないのである。 「男」 「あ?」 朕に対して無礼な態度しかとらないこの男に朕はすがりながら生きていくしか方法はないのである。 朕は息を吐いた。 「名前はなんという」 「なんというって……有馬タカヒサだけど」 朕は目を細くして、男を見つめた。 「有馬タカヒサ、そなたを朕の侍衛長とする。 朕の面倒を見るが良い」 「はぁあ?」 朕の言葉を理解できない異邦人と言う表現はあながち間違いではないのかもしれない。タカヒサはまるで動物であるかのような大きな声をあげた。 朕は不安になった。 タカヒサが朕を受け入れなかった場合、朕はどうやって生きればいいのだろうか。 どの時代でも珍しいものは目を引く。半妖となった朕は科学を生業とするものや、この国における貴族にとって格好の餌食となるであろう。 朕は解剖されてしまうかもしれない。本来は王族だと言うのにこの国の貴族の奴婢にされてしまうかもしれない。 「もしタカヒサが朕を受け入れないと言うならば、せめて自決する術を教えてくれ。 朕は誇りを捨てて生きていってはならぬ存在である」 朕が小さな声で継ぎ足すと、タカヒサは目を見開いた。 「馬鹿野郎。 俺が面倒見てやるから、そんなこと言うな」 朕はホッと安心した。 いつの時代もそうじゃ。王族が自分の人生を選べた事はない。 王族は常に裏にいる貴族や将軍に操られている傀儡である。朕に用意されていた玉座は自分ではない誰かが好きに操る為の道具に過ぎなかった。 朕も朕の時代に豪遊できたのも誰かの企みがあったからである。それは朕を廃位させるための過程でしかなかったはずだろう。 朕が倭国に来て、今の時代を生きたとしてもそれは変わらないだろう。 それ故に王族は孤独である。 孤独を耐え抜いて王は国を治めるのじゃ。 「朕もこのくさい服を着て我慢するのじゃ。 そなたも朕の為に我慢せよ」 「お前……頼んでおいてその態度か」 またタカヒサに無礼なことを言われたが、朕は耐え抜く事にしたのである。なんでも住めば都じゃ。朕はこの狭くて汚い建物の一室を朕の都にすることに決めた。 next にゃんにゃんにゃーん!(趣味丸出し) written by Chiri(4/11/2011) |