百万回殺された悪魔(4) 「いたぞ!こっちだ!!」 ハァ、ハァ、ハァ 息遣いが荒い。 もうずっと走っている。 あれから行くところも無く、がらんどうの心のまま付近をうろついていたラピだった。 しかし、突然銃で肩を撃たれ、振り向いた先には町の自警団がいた。 必死で森の中に隠れたが、あちらそちらで足音が聞こえている。もう何人で追われているかなんて分からなかった。 「早く殺せ!あいつを野放しにすると危険だ!」 (なんで?なんで、みんな僕を殺そうとするの?) ズドンと銃が鳴る。 今度は右足をかすれた。 最初に撃たれた傷は既にふさがっていたが、今度は右足がずくんずくんと痛み出す。 (痛い、痛い、痛い) 泣きながら走ったが、右足がもつれて上手く走られない。 それでもという気持ちで藪を抜けると、広野に行き着いた。 しかし藪を出た瞬間に向こうからも自警団が現れた。 「追い詰めたぞ、バケモノめ!」 いつのまにか囲まれていた。 2,30人の自警団は皆銃を持っている。 (死ぬんだ、僕はここで。) 自警団のリーダーのよう男が一歩前に進み出る。 ラピは勇気を出して、その男に問いかけた。 「な、なんで、…僕は殺されるの?」 「悪魔が何を言う!人間を根絶やしにするつもりのくせに!」 即答された。 悪魔だから? 本当は半分は人間なのに? それに人間を根絶やし? 「ぼ、僕、そんなの考えていません…。」 声が、ブルブルと震えていた。 「なら、あのB倉庫地区はなんなんだ!?お前がやったんだろう?」 あの倉庫のことだ。 ラピは一層、戸惑った表情になった。 「あ、あれは…。ぼ、僕も分からなくて…。なんでああなったのか…。…それに。」 銃は依然としてラピに突きつけられていた。 「僕は半分は人間です…。」 「バカな!」 「…本当です。」 そういいながら、涙がボロボロと出てきた。 ラピがその場にうずくまり、涙を手の甲で拭う。その様子は外見だけ見れば人間の少年にしか見えなった。ただし、悪魔の羽を除いて。 「う…。」 自警団のリーダーと思われる男は少し躊躇したように銃を斜めに下ろした。 しかし、その時後ろで部下が叫ぶ。 「隊長!悪魔の得意技は泣き落としです!だまされないで下さい!」 ハッとしたようにリーダーがラピを見た。かちんと目線が合う。 「ぼ、僕、ちが…」 ラピは必死に首を横に振った。 「だまされるものか!悪魔の羽が証明している!!」 また部下の声がした。 その声に伴い、リーダーの顔は険しく変化した。 「…俺としたことがだまされるところだった。」 そういいながらまた銃の照準をラピに合わせてきた。その照準の先で泣き晴れた目をしたラピが信じられない顔でリーダーを見ていた。 「違う、僕、騙してなんか。」 「うるさい。もう聞くか。」 リーダーの手元の筋肉がきゅっと締まる。 そしてトリガーに指を添えた。 (嫌だ!) またあの時と同じだ。 胸の奥が熱くなって、何かが放出してしまう。 ラピにそれは止められない。 突然ガタガタと地面が鳴り始めた。 そしてすぐに経っていられないほどの激しいものへと変わる。 「な!!なんなんだ!」 「ヒィィ!」 「悪魔め!!」 そこにいるもの全てが混乱した。 またもやピキピキと地面が割れて、ボコボコと隆起したり沈没したりする。 「落ち着け!コイツを殺せば、収まる!」 リーダーをそう叫んでトリガーを引いた。 ドンッッ!! しかし、ラピに当たったはずの弾丸はラピに当たる一寸前にジュワッと溶けた。 赤いオーラのようなものがラピを囲んでいて、まるで溶岩のベールに守られているようだった。 そしてそこから火の粉が飛ぶ。 「くそ!!悪魔め、だましたな!!」 ドン、ドンドン!! 何発もラピめがけて弾丸が飛ぶが、全て溶けてしまう。 リーダーは苦渋に満ちた表情を作った。 「リーダー!火が!!」 部下の一人が叫んだ。 森に火の手が上がっていた。しかも尋常ではないスピードで。 まるで炎にも意思があるように。 ラピを守るという使命を持ったように。 リーダーはくそっと舌打ちすると仲間全員に叫びかけた。 「撤退だ!!一次撤退だ!!」 その声を遠くで聞きながらラピは目を閉じた。 暗い闇の中、自分が誰だかも分からなくなっていた。 ただ感じるのは熱と絶大な力。そして体中の血がどこかで嬉しそうに騒いでいる、そんな心地だった。 (悪魔ってこういうこと?) 人を痛めつけて、自分がしたくないことをしてしまう。 それが悪魔なのか? (それなら悪魔なんかになりたくなかった) 自分の掌を見つめる。 (…なりたくなんかなかった) 狩る方と狩られる方、一体どちらが幸せなのだろうか? ラピにはその答えが分からなかった。 next 攻めを求めて三千里。 written by Chiri(7/1/2007) |