マイ スウィーテスト ハンティング これまでに松木すぐるは幾千の不安な夜を越えてきた。 いつもベッドに入ると、明日にも来るかもしれない災厄を考えてしまう。 それはすぐるが犯した過ちを顧みているわけでもなんでもなかった。ただ、奴のことを考えると不安で不安で仕方が無いのだ。 もう独りで寝るのは嫌だった。 だから、やっとすぐるは決心できた。 すぐるには一人、兄がいる。兄の名前はまさるだ。 すぐるとまさるには両親がいなかった。小さい時に、二人同時に交通事故で亡くなった。それ以来、すぐるとまさるは母親の姉である美代おばさんに育てられていたが、社会人になってからはすぐるも独り立ちして、今では都内にアパートを借りて一人暮らしをしている。 兄のまさるの職業は今のご時勢で「冒険家」というふざけたものだった。 世界各地の秘境を冒険してくる、という身勝手極まりない職業だ。 友達に言えば、十中八九「それ、本気で?」とまず聞かれる。 全くそう聞きたいのはすぐるの方だった。27にもなって、フラフラと安定しない兄の生き方はひどくすぐるをイラつかせた。 それに引き換えすぐるは大手企業のシステムエンジニアに就職していて兄と比べたら地面に足がめり込むほど、地に足をつけた生き方をしていた。モグラみたいな自分と鳥のような兄。 すぐるはいつも細めた目で兄の姿を追っていた。 まさるは3ヶ月に一回、ひどい時では半年に一回、更にひどい時では一年に一回といった風にしか家に帰ってこない。帰ってくるときはやたらに胡散臭い仮面や人形を持ってきて「これはンババ族が儀式に使うものだ。」と言って自慢げな様子ですぐるによこす。 すぐるはいつもその土産品を一応は受け取るが、かなり邪険に扱う。兄の選ぶものはどれも場所をくうだけで、気味が悪かったり、不快だったり、要するに趣味が最悪なのだ。 まさるがいきなり噴火するように「旅に出る!」と言い出したのは、奴が高校3年生の受験生真っ只中の時だった。同時にすぐるは中学校3年生で、兄が受験勉強で頭が変になってしまったと真剣に思った。叔母さんの制止も聞かずに、まさるは家にあるものを何やらかにやら詰め込んで、ジェット噴射したかのように家を飛び出したのだ。 その頃からまさるは奔放でやることがむちゃくちゃだった。 本当に勝手で唐突で、すぐるのことも叔母のことも考えちゃいないのだ。 今もそれは同じで、相変わらず兄はすぐるの都合を考えずにいきなり家に帰ってきたり、いきなり旅立ったりするのだ。 (…兄ちゃんは勝手だ。) ベッドの中ですぐるは誰に言うわけでもなくつぶやいた。 まぶたの裏ではワハハハと豪快に笑う兄のまさるがいた。 すぐるは眉間にしわを寄せた。 (いい、俺もこれからは勝手にする。) 次に兄が帰った時だ。 その時にすぐるはまさるに全てを言おう、と思った。 *** 「すぐる、帰ったぞー!!」 地響きのような声が聞こえたのはそれから二ヵ月後の事だった。 すぐるは呼び鈴も鳴らさずに玄関で大声を出す男に正直辟易とした。 すぐさま、玄関を開けて兄を招き入れる。もちろん小言を言うのは忘れない。 「兄ちゃん、近所迷惑だよ。」 「すぐるは相変わらずだな!」 「兄ちゃんの常識が誰にでも通用すると思うなよ。」 まさるは豪快にハハハハと笑った。 まさるの姿は一見熊のようにヌボゥとしてでかい。顔はずっとヒゲを剃らずにいるので毛むくじゃらだし、手足はすり傷や汚れでひどいものだ。 まさるはいつもそんな状態ですぐるのアパートを訪れる。 「兄ちゃん、お風呂入れよ。臭い。」 「ん?そうか?」 まさるが自分の服に鼻をつけてクンクンと嗅ぐ。 そして分からないといった表情ですぐるの方を向く。 「本当に臭いんだよ!早くお風呂入って、ヒゲも剃れよ。」 「あ、その前におみやげを…」 「もうそれも後でいいから早く風呂!!」 すぐるはまさるを無理やり風呂場に押し込めると、ふぅっと一息ついた。 お風呂場の曇りガラスでできた扉に巨体のシルエットが映し出された。水の流れる音も聞こえ始める。 すぐるはぎゅっと目を閉じる。 (今日こそ言うんだ。) そして人知れずこぶしを握り締めた。 風呂場からは兄の歌う時代遅れな鼻歌が聞こえてきた。 風呂場から出てきたまさるは用意されたバスタオルで体を拭き、パジャマを着た。ヒゲも剃ったので、クマ男からちょっとは見れる顔へと変貌した。 すぐるはいつ帰ってくるか分からないまさるの服も私物も綺麗にしておいてくれる。マメな奴なのだ。 まさるは目じりを下げて、機嫌良さそうにすぐるのいる部屋へと向かった。 「あ、出たの?」 すぐるは何やらパソコンに向かっていたようだった。けれど、まさるに気づくとすぐに画面を暗くさせた。 まさるはローテーブルの上に簡単な食事が用意されているのを見て、ますます大きな笑みを浮かべた。まさるはいつも腹をすかせて帰ってくるので、すぐるも何も言わずに食事を出す。 「お前、いい婿さんになれるぞ〜。」 ドカッと座って、それに口をつける。相変わらず美味しかった。この赤出汁の味噌汁はやはりどこの世界に行ってもすぐるの家でしか食べられないのだ。 まさるにしてみればお袋の味とはすぐるの味と同義だった。 (帰る場所があるってのはいいなぁ。) まさるはそんなことをかみ締めながら、すぐるが用意した野菜炒めをガツガツ喰った。 すぐるは何も言わずにまさるの斜め向かいに座った。 食事はもうとったのだろう、目の前のお茶を落ち着いた様子で啜る。 そんな中、まさるは部屋の様子が何か違うことに気づいた。 前より整然としていて、どこかしら品があり、趣味が良いのだ。何が違うのだろう、と目を凝らしていてようやくその理由に思い当たる。 「すぐる!お前、俺が今まであげた土産はどこにやったんだ?」 「売った。」 衝撃がまさるに走る。びっくりして口があんぐりと開く。 すぐるはどうでも良さそうに茶を啜っていた。 「売ったって!なんで!?」 「邪魔だったから。」 「邪魔って!あれ、兄ちゃんがどれだけ頑張ってとってきた奴か知ってるのか!?」 「知らない。でも良い金になったよ。特にプブ族の雨降らしの杖とか。兄ちゃんって結構すごい冒険家だったんだね。」 「あーあれはすごい細工だったからなー…ってじゃなくて!!」 ダン!!とテーブルを叩いたのはまさるではなくすぐるの方だった。 まさるは文句を言おうとした口を咄嗟に噤んだ。 そんなまさるをすぐるはゆっくりとするどい視線で見つめた。 「もう嫌なんだ。兄ちゃんの帰る場所を作るのが。」 まさるはその言葉に絶句した。先ほど、そのありがたみを実感したところなのに。 「兄ちゃんはいいよな。勝手に外を飛び回って、気が向いたときだけうちに帰ってきて…。」 すぐるは眉間に縦皺を何本も寄せて、苦い顔を作る。 「俺はもう嫌なんだ。兄ちゃんが帰ってくるのを待つのも、兄ちゃんが旅立つのを見送るのも。」 「……すぐる。」 まさるは信じられないといった様子ですぐるを見つめる。だって俺らは家族じゃないか、といった風に。 すぐるはそんなまさるのすがるような眼差しから目線を外して、ハァーッと長く息を吐いた。 「…決めてくれ。」 「何をだ?」 苦しそうなのはすぐるの方だった。 「日本で定職につくか、このまま世界を飛び回るか。けど、世界を飛び回るって決めたらもうこの家には寄らせない。」 すぐるの目は本気だった。 絶望という文字がまさるの顔に浮かび上がる。 すぐるはまさるの顔の変化を何一つ見逃さないように見つめた。 まさるは頭の中が混乱していた。竜巻が訪れて頭の中の思考をひっかきまわす。 …選ぶ。 家か自由か…。 それを考えた時まさるは自分がどれだけいいかげんな奴かをやっと思い知った。今までやりたいことをやる大胆な人間だと思っていたのに、こんなにシンプルな問題にすぐに答えられない。 まさるは考えに考えたが、答えは一向に出ない。何故なら、まさるはどちらも切望していたからだ。 まさるはすぐるが大好きだった。すぐるに会えなくなるのはつらかった。けれど、もし定職についてすぐるとずっと日本にいることを考えると身がもたないのだ。 どうすればいいのだ。 どうすれば俺は…。 無数の脂汗が顔に浮かび上がってくる。それでも答えはやはり出なかった。 そして沈黙をやぶったのはやはりすぐるの方だった。 「やっぱ…兄ちゃんに自由を捨てるのは無理だよな。」 すぐるはフッと笑った。その顔がまるで全てを諦めて決心したように見えた。 その様子にまさるは目を見開いた。すぐるの中で結論が出てしまったと思った。 まさるは必死で首を振った。 「違う。待ってくれ。ちゃんと選ぶから。」 「いい。兄ちゃんは冒険家をやめられない。そうでしょ?」 「違うんだ!すぐる、待ってくれ!」 すぐるはスッと深呼吸した。そしてまさると静かに向きあった。 「もう待たない。だから、俺もついて行く。」 すぐるの答えにまさるは耳を疑った。 すぐるはまさるに浸透するようにもう一度ゆっくりと言った。 「これからは俺も兄ちゃんについていく。もう待つのは嫌なんだ。」 二人は沈黙の中、長い間見つめあった。 すぐるの目はとても真剣で、意思は固まっているように見えた。それに対してまさるは呆けたように微動だにしない。 カチッと時計の針が振れる音でまさるはハッとした。 「だ、ダメだ!!お前、冒険家なめてるだろう!案外危険なんだからな!!」 「俺だって男だよ。それに、ここ半年間ジムに通って鍛えてたんだ。」 「何言ってんだ、そんなほそっこい腕して!俺の半分しかないんじゃないか!」 「兄ちゃんと一緒にすんな。バケモノ。」 「なっ!!」 拗ねた口調でバケモノと言われてまさるは余計に頭に血が上った。確かにまさるは体力バカで図体もでかかったが、それに反してすぐるは昔からもやしっ子だった。 「ダメったらダメだ!!お前彼女どうしたんだ!置いてっていいのかよ!」 「そんなんいつの話だよ!もう大学の時に別れたよ!」 「じゃあ、美代おばさんはどうすんだ!きっと心配するだろ!」 「既に心配させまくってる兄ちゃんに言われたかないね!!」 ウッとまさるは一瞬言葉を呑む。けれどここで負けてはいられなかった。 「じゃ、じゃあ、お前、会社どうすんだよ!せっかく大手入れたって喜んでたじゃないか!」 「会社はもうやめた。」 ヒュッとまさるが息をのんだ。 「どうせ兄ちゃんは冒険家辞めるはず無いだろうって分かってたから…。」 「な…何考えてんだよ、お前…。」 自分とは違っていつも冷静な判断を下すすぐるとは思えなかった。 いつでもまさるが調子にのってとんでもないことをしても、すぐるは一歩後ろに立って、そんなまさるを制したり、宥めたり、受け入れていてくれた。 まさるはすぐるこそがすぐるの皮を着たバケモノなのではないかという目線ですぐるを見つめる。 「もう嫌なんだ…。兄ちゃんがちゃんと帰ってくるか、どっかで死んだりしないか、心配するの…。」 そう言って、すぐるは顔を伏せた。震えた声音で続ける。 「兄ちゃんは分かってないだろ!!どれくらい不安なのか!いつ本当にまた一人ぼっちになるかもしれないか分からないんだぞ!!」 ポツッと一粒だけ床に涙が落ちるのが見えた。それをまさるは信じられない様子で見つめる。自分が涙を流していると気づいたすぐるはくそっと小さく呟いた。 まさるはこれ以上になく胸が苦しかった。 自分がそれほどまでにこの可愛い弟を苦しめていたなんて露ほどにも思わなかったのだ。 できれば、弟の願いを叶えさせてあげたいという気持ちが芽生えてしまった。 けれど、その根付きそうな気持ちをまさるは死ぬ思いで引きちぎった。 「それでもダメだ。お前はここにいるんだ。」 決め付けられたように宣言されて、すぐるも黙っていられなかった。 「なんでだよ!いいだろ!!俺も行く!!決めたんだ!!」 「ダメだ。」 「ひどいよ、兄ちゃん!そんなん言われたってもう聞かないからな!」 「俺はお前を連れて行かない。」 連れて行けないんだ、とまさるは心の中で呟いた。 すぐるは知らないのだ。なぜ、高校三年生のとき、まさるがいきなり家を飛び出したか。 まさるにはそうしないといけない理由があったのだ。 「嫌だ、俺はついていく。ついていくって決めたんだ。」 すぐるは一向に聞き分ける様子は無かった。 その様子にはやはり分別のある大人だとしても、元々末っ子気質な部分が見え隠れする。 すぐるは駄々をこねるようについて行くと言って聞かない。 何度もダメだといってまさるもさすがに神経が磨り減りそうだった。 そして咄嗟に出てしまった。 「すぐる、いい加減にしろ!!俺がお前にどんな思いを向けてるか知ってんのか!!?」 すぐるはハッとした様子でまさるを見た。 まさる自身も自分が何を言ったかその時は分かっていなかったが、少し遅れて自分が何を言ったか理解した。そして咄嗟に自分の口をふさいだ。 「兄ちゃん…今の…。」 「すっすすすぐる!!今のはなんでもない!!違うんだ!」 まさるは慌てて否定したが、悲しいかな、それは肯定しているも同然のしぐさだった。 けれどすぐるは一切動揺しなかった。 まさるが手を振り、首を振り、全身で否定する中、静かに立っていた。 「…俺、知ってたよ。」 まさるは目を見開いた。 すぐるとまさるの視線がぶつかる。 「知ってた。兄ちゃん、俺が好きなんだろ。」 なんでもないことのようにすぐるは言ってのけた。 なんともいえない沈黙がまた二人に降りかかる。 まさるの唾を飲み下す音がごくりと響く。 まさるは小さく首を振っていた。ただ信じられなかった。 「な、なんで…。そんなわけが。」 信じようとしないまさるにすぐるは平坦な口調で続ける。 「俺、見たんだ。兄ちゃんが高校生の時、俺の名前呼びながらマス掻いてた。」 「マッ!!」 まさるの顔が赤く染まる。 浅黒かったはずの肌の色が、火がついたかのように赤い。 まさるが高校三年生のとき。 まさるにとってもう全てが限界だった。 可愛い弟にいつからか邪な思いを抱くようになって数年たっていた。 けれど可愛い弟はそれに気づかず相変わらずまさるを慕って、親しげにすり寄ってくる。 部屋が同じというのもそれを助長させた一つの要因だった。 二人はその時同時に受験生だったから、夜遅くまで一緒の部屋で勉強した。 けれどまさるは全然数式が頭に入らなかった。 ちらちらと真剣に参考書を開く弟を見ながら、その綺麗なうなじにしゃぶりつきたいといつも考えていた。 もう我慢がならないと思った。 けれど襲い掛かって悪戯に弟を哀しませたくは無かった。 だから家を飛び出したのだ。 「お前、知ってたならなんで…。」 まさるはすぐるの目を見れなかった。けれどすぐるはいつもの様子のまま、まさるをじっと見ていた。 「その後すぐに兄ちゃん出てったじゃないか。」 「…そうだけど。」 まさるは自分の伸びた髪の毛を所在なさげに引っ張る。 「…。」 「…。」 そしてまた沈黙。 「兄ちゃん、俺…大丈夫だから。」 不意にすぐるがしゃべりだす。まさるは静かに顔だけ傾けてすぐるを見た。 「俺、そういうの全部こみで兄ちゃんについていきたいんだ。」 瞬間、嘘だ、とまさるは思った。 そんな簡単に答えなど出るはずがないのに。なんで弟はここまで頑なについてくるというのだろうか。 「お前、自分が何言ってるのか分かってるのか?」 思ったより大きな声が出た、とまさるは思った。すぐるはまさるを相変わらず落ち着いた顔で見ていたが、すぐに返事を与える。 「分かってるけど。」 「じゃ、お前俺とキスできんのかよ!!そ、それ以上のことだって…。」 「すればいいじゃん?」 挑発するようにそう言うと、すぐるはまさるの方を向いて、目を閉じた。 いかにもキスして、といったポージングだ。 まさるはカカッと顔が赤くなる。 ( なんだこれ!!これって誘い受けって奴か!?) 頭の中でいろんなことが交差する。 まさるはすぐるの頬に手をのばした。頬に触れてもすぐるはピクリとも反応しなかった。目下に迫るすぐるの薄い唇。 それを見て、どうしようもなくまさるは興奮した。 けれど。 「やっぱだめだ。」 パチンとすぐるは目を開けた。瞳がどうして?と訴えていた。 まさるはスゥと息を吸い込んでから、言った。 「お前は、こんなことしちゃ、ダメだ。いい大学いったし、大手の会社だって入れた。今からだって十分いい会社から話が来るだろうさ。」 「…兄ちゃん。」 すぐるは顔を俯けた。それは、すぐるが諦めたものの羅列だった。すぐるだって好きでそれらを捨てたわけじゃないのだ。 「いい会社行ってさ、器量の良いお嫁さんもらって、かわいい子供つくってさ!!」 「…。」 「お前の幸せを俺は壊せないよ…。」 まさるは自分の幸せを押し隠した笑みをうかべる。華やかさは無く、ただひっそりと笑った。 すぐるはもう一度顔をあげた。 そしてそこにもまた笑みが浮かべられていた。 少しでも空気を揺らせば、泣いてしまいそうな笑みだ。 「でも、俺は兄ちゃんが好きなんだ。」 まさるはピクリと顔をあげる。 「…そんな兄ちゃんだから好きなんだ。」 どこまでも真っ直ぐな瞳だった。 すぐるの言うことに嘘は無く、ただ真実がそこに横たわっていた。 まさるは信じられないという目つきですぐるを見ていた。 すぐるの顔はほんのり赤く、がらにもなく照れているように見えた。 すぐるはまさるが自分を見ていることを確認すると、また目を閉じた。 「ほら、キスしろよ。」 口をとんがらせたまま、ぶっきらぼうにそう言う。 本当はそう口にするのがとても恥ずかしいのだろう。 まさるはそれを見て、もうどうしようも無かった。 本当は最初から止められるはずなど無かったのだ。 風が吹いたかと思った。 一歩足を踏み出して、すぐるを引き寄せるとそのまま自分の口をすぐるのに押しつけた。 すぐるの唇が小さく孔を開けているのに気づくと、そこに舌を差し込み、すぐるの口内をかき回した。 「ん…ふぅ…。」 すぐるが苦しそうに甘い息を漏らす。 独りぼっちだと思っていのは決してすぐるだけではなかった。 まさるもずっと独りで旅をして、そうすることですぐるへの気持ちをひたがくしにしてきた。 ずっと触れたかった。 ずっと口付けたかった。 ずっと抱きたかった。 認めてしまえば、もうそれ以外には道が無いことを知った。 すぐるを連れて行くしか、もう道は無いのだ。 まさるはもう後には戻れないと思った。 だから、進もう、と。 まさるは甘い口付けに酔ったすぐるの服の下に手をしのばせた。 「え、兄ちゃ…。」 驚いたすぐるがまさるを見上げる。 まさるはそんなすぐるを見て、悪戯っぽく笑った。 「誘ったのはお前だぞ。」 カァァァと今以上に赤くなるすぐる。耳まで真っ赤になった。 「で、でも、ちょっと待って…。」 「待たない。」 そう言って、後ずさるすぐるをやんわりとベッドへと押し倒す。 「ちょ、まっ!!」 まさるはそう抗議しようとするすぐるの口を自分のでふさいで、服を一枚一枚と剥ぎ取っていく。 いきなりのことですぐるはパニックになっていた。 どうしよう、どうしようと頭の中が混乱する。 そういうことになるだろうとは思ったけれどさすがに今からというのは早すぎだ。 心の準備もできていなかった。 けれど。 ふと見た兄の顔が思いのほか、優しく微笑んだのだ。 さっきまで死にそうな顔をしていたはずの兄の顔だった。 それを見て、すぐるはフッと力を抜いた。 困ったような笑みを浮かべて、兄を見つめる。 (まぁ、…別にいいか。) と単純に、自然に思えることができた。 すぐるがそんな風に楽観的に物事を思えるということはすごいことだった。 その様子にまさるはもう一度、ニカリと悪戯っぽく笑う顔を作った。 まさるはいつもそうだったように満面の笑みを浮かべ自信に満ちた瞳をしていた。 まさるはすぐるの首元に口を寄せた。すぐるの体がびくんとはねる。 兄は茶化すように、ささやくようにこう言った。 「こんなんでビビッてたら冒険者なんてなれねーぞ?」 それですぐるはやっと観念した。 全くその通りだ、 と思ったからだ。 終わり また微妙なところで終わる、という… written by Chiri(4/17/2007) |