眼鏡を探せ! 「眼鏡が無い。」 目の前の男を見て、昴はそんなバカな、と思った。 本気でコイツはそんなことを言っているのだろうか。まるで漫画みたいじゃないか。 昴は呆れた目線で眼鏡を探す男を追う。 男はまるで暗闇の中を歩くように手を360度に泳がせながら歩いている。 「昴も探すのを手伝ってくれ。」 本気の声で男は昴に助力を願った。しかし、昴は平然と言った。 「やだね。めんどくさいもん。」 「なんてひどい恋人だ。」 「悪かったな。」 昴はつんと顔を背けた。小さい口を更に窄めて尖らす。 大体。眼鏡なんてそこにあるじゃないか。 と心の中でひとりごつ。 そこに…。 男の頭の上にっ!! 昴はハァッとあきれ返った。 しかし、本当に男は気づかない様子でそこら中を探し回っている。挙句の果てに視覚に頼らず、嗅覚に頼っている様子だ。 「無い、どこにも無い。」 男は心底困ったという表情を作った。目頭を押さえるのは困った時の男のくせだ。 そりゃ、部屋のどこを捜しても無いだろう。シャンプーでもしたらやっと気づくかもしれないが。 「昴、お願いだ、手伝ってくれ。」 男はもう一度言った。 昴は「やーだよーーーん!」と言って、手元にあった漫画をパラパラと読み始めた。正直、教えてやるのは簡単だが、無い無いと探し回る男を見るのは少し滑稽でおもしろかった。昴はにししっと口元だけで笑いながら、目元は澄ました様子で漫画のコマを追った。 そして次の瞬間、ぴかっと悪巧みが頭に浮かんだ。 昴はにんまり笑いながら、男の方に顔だけ向けた。 「ヒントあげようか。」 「ヒント?」 「そうだよ、眼鏡のありか。」 「なんだ、分かってたのに教えてくれなかったのか。嫌な奴だ。」 「嫌な奴だもーん。でも優しいから教えてあげる。この部屋探しても無駄だと思うよ。」 男はきょとんと目を瞬いた。そのあと、眉間に皺を寄せてうーんと考えこむ。 昴は「自分はなんて優しい人間だ。」と思いつつ、漫画に目線を戻した。部屋の床に寝転びながら、もうすっかりくつろぎモードだ。 これで男が勘違いして部屋の外までその姿のまま行けばお笑い種なのに、と昴は思った。 「なるほど、分かった。」 瞬間、耳元で男の声が聞こえた。 顔ごと振り向くと、すぐ横に男がいた。驚いた昴は思わず聞いてしまった。 「何?」 「眼鏡のありかだ。」 男はそう言うと、寝転んでいる昴の上にどすんと乗っかってきた。 「なにすんだ…?」 「ここにある気がする。眼鏡。」 「へ?」 突然べろんと服を上に捲し上げられた。そのなかを男はくんくんと臭いを嗅ぐように鼻を押し付けてきた。 「ちょ、お前何考えてんだよ!」 昴は慌てて男の体を両手で押し返す。男は不満そうな顔をして、もう一度顔を近づけた。 「だからやめろって!」 「いや、絶対眼鏡がここにある。きっとある。」 「ねーよ!そこには乳首しかねーよ!!気安く触んな!」 「なんだ、乳首か。匂いが似ていた、すまない。」 しれっとそういいながら、男はペロッとそこにある赤い実を舐めた。昴の顔が途端に赤く染まる。 「じゃ、もっと下かな?」 男が不穏な動きをする。 昴の体からいったん引いたはずの男の右手がどんどん下に下がってきて、昴のズボンのチャックをおもむろに開けはじめる。それに気づいた昴は赤い顔のままわぁわぁ叫んだ。 「てめー!何考えてやがる!!!」 「いや、眼鏡が…。」 「そこには無いっつーの!!」 「果たして本当にそうだろうか?いや、そうと決め付けるのははやすぎる。」 「アホかお前は!!バカなことはやめろ!!」 昴の罵声に男は悩ましげに目頭を手で押さえてため息をついた。そのしぐさが何故か無性に色っぽい。プラスうさんくさい。 昴はやっと男が眼鏡にかこつけて何をしようとしているかが分かった気がした。 「もう分かったから!!眼鏡な!!眼鏡の場所が知りたいんだろ??」 「ああ、そうだった。」 そうだったじゃねーよ。 「お前の頭の上にのっかってるっつーの!!」 昴は勢いよく男の頭を指差した。男は一瞬だけ眉を歪めた。 そして無言で、自分の頭上を確かめる。眼鏡がそこに乗っていることを確認すると、男は用心深くそれを取り出して、ようやく自分の顔へと戻した。 それを男の下から見ていた昴ははぁっと長い息を吐いた。 「これで気が済んだろ?」 「ああ、これでよく見える。」 「じゃ、俺の上からどけ!」 「視界もはっきりしたし、これで続きができるな。」 昴はあんぐりと口をあけた。 男は口の端だけ上げて笑った。 果たして最初から全てが計算だったのかどうかは昴には分からなかった。 終わり 乳首と眼鏡の匂いが似てると平然にいう男の話。 written by Chiri(5/4/2007) |