相対的ジャイアニズム(2)



 それからそんなプリクラのことなんてすっかり忘れて日々を過ごしていくうちに、高校では後期のテスト期間に入り、部活ができない期間へと突入していた。
 この時期は僕にとっては苦痛の毎日だ。もちろん僕みたいな運動音痴は部活には入っていない。けれど不二夫はあれでバスケとかやってるもんだから、部活のある日はそんなにもちょっかいをかけてこない。そもそも不二夫の頭の中にチームワークなんて言葉が頭にあるだけで信じられないのだが、意外と上手くやっているらしい。ところがこの時期、アイツはスポーツでストレスを発散する事もできない上に勉強なんてやろうともしないから、僕を苛めて遊ぶ期間だと思ってやがる。僕は勉強もあまりできないからいつも学校の図書室で居残って勉強する。けれど、いつもバイブにしてあった携帯が震えて、僕の勉強時間は終了する。
 今日もポケットが震えだして、僕ははぁっとため息をついた。
「今日も一時間しか勉強できなかった……」
 メールの画面には悪魔の名前が並んでいた。
『いますぐうちにこい』
 呼び出しだ。きっとこれから徹夜で桃鉄をやらせられる。それか不二夫がやってるロールプレイングのゲームのレベル上げを不二夫が寝ているその横で永遠とやっていないといけないのだ。
僕はさっさと荷物を片付けると、図書室を出た。
「寒っ!」
 底冷えする廊下をマフラーに顔を埋めて進む。

 図書室は校舎が違い、しかもそこには図書室以外は何も無いので基本廊下には誰も居ない事が多い。
 けれど、ふと誰かが忍び寄る気配に気付いてぐるりと体を翻した。
 そこには見たことの無い生徒が一人立っていて。上履きから見るに二年生のようだ。
「あの、何か?」
「君、冬真君?」
「え、……はい」
 名前を言い当てられて目を瞬いた。
 顔を見てみるとなんだか薄気味悪い笑みを浮かべている。瞳の裏側で何か別のことを考えていそうな顔だ。こういう人間は苦手だ。思ったことをすぐに口に出してしまう不二夫とばかり一緒にいたせいかもしれない。
「ふぅん?そっか、君が冬真君」
 男は含んだ笑い方をして、僕を舐め回すように見てきた。その視線が気味悪くて、僕はすぐに話を切り上げようとした。
「あの、僕急いでるんで……」
 そうだ、遅れたら不二夫の鉄拳が飛ぶ。学校から家に帰るのに徒歩で15分。20分以上遅れたら僕の頭は不二夫の拳で凹んでしまうだろう。
「おっと、ちょっと待って?これに見覚えない?」
 そう言って男がポケットから出してきたもの。それを見て僕は背筋を凍らせた。頭の中が真っ白になる。

「廊下に落ちてたんだ、このプリクラ」

 FUJIO―――――――!!!!!

 思わず英語でシャウトしたくなった。
 え?っていうか何落としてんの、あいつ?そういえばこの前手帳にはさんでたけどそのままずっと入れたまんまだったわけ?それじゃ落とすはずだよ!!っていうか誰かに見られて被害をこうむるのは全て僕の方だと言うことに気付いてくれよ!いや、気付いた上での犯行か!?
 頭の中でぐるぐると不二夫に対する恨みつらみ、悪口雑言が繰り広げられる。けど、当の本人はどうせ家でゲームして笑っている最中に違いない!

「あ、あの!返してください、それ!」
「え〜やだ。それよりちょっと一緒に来てもらいたいところがあるんだけど」
「へ?」
「返して欲しかったらついてきなよ」

 男に連れられていった場所は資材準備室。なんでこんなところに?と思って入り口で立ち竦んでいたら後ろからドンッと押された。
 その勢いで中に入ってしまい、準備室のドアが閉められる。カチャリと鍵がかかる音がした。
 見上げると、さっき僕を連れてきた男の他に二人見慣れない奴がいた。一人はメガネで、もう一人はかなり明るめの茶髪。どちらも一つ先輩のようだ。
「これが、ふにゃちん冬真クン?」
 一人がそう言って僕は内心キャ――――――と乙女の悲鳴をあげた。そうだ、不二夫の奴プリクラになんか書いていたんだっけ!
「うん、そうらしいよ」
 僕を連れてきた男が笑って答える。
 奥にいたメガネの男は僕の前に立つと、僕をジロジロと見てきた。
「ふぅん、地味じゃん?」
 悪かったなー!
「地味なのも趣味隠すためでしょ?」
「へ?趣味って……?」
「冬真君は女装が趣味なんでしょ?そんで男が好きなわけだ?」
 僕はぽかーんと口を開けた。
 けれど、そうだ、あのプリクラを見たらそう思われるのが普通なのかもしれない。
 だってあのプリクラには僕のセーラー服姿と僕の永遠のラスボス・不二夫との濃厚キスシーンが映し出されていた。
「冬真クンって変態なんだ?」
「へ、へんたい!?」
 とんだ誤解だ!!っていうかそれにはFUJIO!!不二夫!!不二夫をどうかよろしくお願いします!!
 茶髪の男がニヤニヤした顔で僕ににじり寄る。僕は初めて冷や汗というもので寒気を感じた。汗が冷たいってどういうことだよ。
「それでさ、僕たちも冬真クンの恩恵に預かろうと思って」
「おおおお恩恵?」
「遊ぼうよ。楽しい事して」
 嫌な予感はして、警報はずっと鳴っていった。それが最高潮に達した時、僕は逃げようとしたけれどすぐに茶髪に行く手を阻まれた。
「おっと逃がすかよ」
「や、やめてください!」
「好きなくせに」
「純情ぶってんじゃねーって」
 そう言われて僕をここに連れてきた男に後ろから押し倒された。
 準備室の床のほこりが一瞬くらげみたいな形になって舞い上がる。
「た、たすけ―――――」
 大声を出そうとしたら、口に何かを詰め込まれた。ハンカチだ。唾液が上手く飲めず、息が苦しくなった。手足を振って暴れたけど、三人で押さえ込まれてちゃ動けない。ただでさえ貧弱な体なのに。
「ズボン脱がせろって!」
 茶髪の男の声に足元にいたメガネが反応する。僕のベルトに手をかけて、カチャカチャ言わせてそれを外す。
「あ、それで手、拘束しちゃえば?」
 名案のように誰かが言うと、僕のベルトは僕の手のまわりにキチキチに巻かれてしまった。
 ぶわっと涙が出てきた。
 こんなことされたの初めてだ。
 僕はいつだって地味で目立たなくて、不二夫の影に隠れていた。不二夫だっていつも僕をいじめてきたけどこんなにもひどいことはしたことが無い。体の自由を奪われて何かをされたなんてことは無かった。アイツはいじめると同時に守ってくれていたのかもしれない。
 いつのまにかズボンが脱がされて、下着だけにされてしまった。シャツもボタンを引きちぎられて上半身が露になっていた。僕がプルプルと震えていると、投げ出されたズボンの中に入っていた携帯がヴーヴーと震えた。
 きっと不二夫からのメールだ。
「何、携帯なってるよ?」
 メガネが勝手に僕の携帯を漁って、中を開く。
「『はやくこいって言ってるだろ!』だって。何?誰かと約束してたの?」
 その言葉に僕はうんうんと頷いた。約束してるから帰らせてよ!そういう意味を込めて。
 その腋からメガネの手元を覗き込む茶髪は、ちゃんと僕をおさえつけたまま携帯の画面を見ている。
「あ、これって、もしかしてプリクラに一緒にうつっていた天才彼氏じゃねーの?」
 彼氏!?不二夫が彼氏!!?ヒィィ!!やめて!その野放図的妄想!!
「そうだ、きっと」
「おもしれー。自分の恋人がこんな目にあってるなんて思ってねーんじゃね?」
 メガネと茶髪はニヤニヤと笑って僕を見ている。それを見計らって僕に乗っかっている男がシャツの中に手を入れてきた。
「んんっ!」
 冷たっ!!そうだ、冬なんだよ!さむいんだよ!ズボン剥かれてるから足なんて生足だよ!
「乳首たってるよ?」
 男が囁いてきた。
 寒さのせいだよ!!と僕は心の中で叫んだ。男は笑いながらそれを掴みあげてきた。
「んんっん〜!!」
 びくりと体が反応した。
 もうやだ〜!何これ〜。泣きそうになって体をそらすけど、男はそれを離さない。

 不意に、パシャッと音がした。
 携帯の写メの音。

 見るとメガネが僕の方に僕の携帯を構えていて、笑っている。
「これ、天才彼氏に送っちゃおうぜ?」
 やーめーてーーー!!
 メガネは僕の携帯で勝手に操作し始めた。そしてすぐその後に
「送信完了!」
 とわざわざ教えてくれて。
 もうなんていうかいろいろと絶望的だ。
 レイプされかけている時点で絶望的だけど、もうなんていうの?未来に暗い影がおとしているっつーか。希望が見えない。本当、死にたいわこれ。
「なんて返事くるかなぁ?」
 鬼畜メガネめ!!
「すぐに返信きたら気付くように、音出るようにしておけよ」
 類友め!!
 心の中で奴らを罵るけれど、ハンカチがいれられていて口にも出せない。僕は本当に無力だ。
 メガネと茶髪は携帯を床に置いて、また僕の体をいじくり出した。
 乳首とか僕のふにゃちん君とか触りだして、もう本当にダメだった。
 だって触り方がやらしい。やるなら早くやれよ!つっこんで消えろよ!って思ってるのに変態エロ鬼畜トリオたちは何故か僕の喘ぐところが見たいらしい。
「んんっ……んっ……んっ…………」
「あ、エロい顔しだした」
 嬉しそうに最初に僕を連れ出した男が言う。
「なんだ、ちゃんとふにゃちん機能してるじゃん」
 大きなお世話だよ!
「プリクラでエロい顔してたもんなぁ」
 はぁ!?
「どうせいつも彼氏に可愛がってもらってんだろ?」
 甚だしい誤解だ〜〜〜〜!!
 しかもこのトリオは分かっていない。あれはエロい顔じゃなくて変な顔なんだよ!!勝手に発情してんじゃねー!
「後ろ、ならしてあげたら?」
 茶髪の言葉にドキッと胸が鳴った。や、やばい。
 メガネがめんどくさそうに僕のパンツを全部下ろす。僕の下半身ご開帳。
 奴の手が僕のお尻をゆらゆらと擦る。そしてその双丘を割ってメガネの手が僕の奥の場所に触れた。
「んっん〜〜!!」
「あ、全然だめ。なんかぬらすものない?」
「あ、俺ハンドクリーム持ってるぜ?」
「ん〜〜〜〜〜!!」
 ぎゃ―――――――!!やめて!!僕、そんなところに指いれられたら死ねる!!恥ずかしくて死ねる!!
 けどそんな言葉はもちろんメガネに届かなくて、指を突っ込まれた。
 その瞬間、僕の頬に涙が転がり落ちる。
「んっ!」
 これ、痛い。痛いってもんじゃない。きもい!!きも痛い!!最悪だ!!
 僕がまた暴れだすと、茶髪と最初の男に押さえ込まれた。
 次第にメガネの指が増やされていく。中を広げられているのが分かる。
 そして突然それが抜かれてしまった。
「入れていい?」
 と許可をねだったのは僕にではなくて残りの男たちに、である。
「うん、いいよ」
「俺、二番がいいな!」
 ああ、お前らなんでそんなに物分りいいんだよ。ここはじゃんけんしようよ!じゃんけんで決まらないで喧嘩しよう!そんで勝手に自滅してよ!!
 僕が涙を流しながらそんな事を考えていると、メガネの無慈悲な言葉が落ちてきた。

「じゃ、いただくとするか」
「んんん〜〜!!」

 その時である。
 ありえない希望にすがる僕に、悪魔の音が聞こえた。


 パラリラリラリラリラリラ〜〜〜♪


 いやこの場合は救いの音色?


「!?」
「え?なに?」
「このメロディーって…」

 僕の携帯が鳴ったのだ。
 ゴッドファーザーのテーマ。
 もちろん不二夫専用の着信音だ。


 パラリラリラリラリラリラ〜〜〜♪



 ……沈黙。
 なんともいえない雰囲気だ。レイプしている場面に流されたくないbgmのランキング上位にあがるかもしれない。レイプ犯に迫りくる報復の音。トリオにただよっていた変態オーラが若干緩和されている。
「せっかくいいところだったのに!きっちまえよ!!」
 メガネの苛立った声に茶髪が動く。茶髪は携帯を拾い上げると、僕の最後の希望をぶちりと切りやがった。
「さて、仕切りなおして……」


 パラリラリラリラリラリラ〜〜〜♪


「……」
 ……言った側からまた鳴っている。

 僕はもう祈った。これはもう祈るしかないだろう。
 FUJIO!不二夫!不二夫様!!ジャイアン様!!
 どうか〜僕をお助けくださいませ〜〜〜〜!!
 ことのきっかけは全部お前のせいだが、助けてくれたら感謝します!!!

「電源、切れって!」
「分かったって」

 ブチッ。

 あああ〜〜〜。
 今度こそ僕の希望は本当に切れてしまった。

 呼び戻された希望が絶望の淵に落ちていく。
 ああ、もうこうなったら本当に快楽を貪って変態になってやろうかな、と覚悟を決めた瞬間だ。

 今度はドアがドンドンとなった。


「てめー!!そこにいるだろ!!わかってんだよ!!!」


 ……ゴッドファーザーのおでましだ。
 じゃなくて不二夫です。不二夫様です。

「うわ、マジで!?」
 途端に騒ぎ出す三人。ドアは依然としてドンドンとなっている。っていうか不二夫明らかに蹴っている。このままだと…。
 僕は歩腹前進でドアから離れていった。ドアに気をとられている三人はそんな僕に気付かない。ドアが揺れる音は大きくなっていく。



 ダン、ダン、ダン、…………ダァァアァァン!!


 資材室のほこりが舞い上がる。
 ドアの近くにいたメガネに向かって、ドアが倒れた。っというかもう破裂ってかんじ?

 ……やっぱりね。
 デジャヴを感じていたんだ。僕の部屋の扉を蹴り倒された時のこと。

 あの頃よりも数段パワーアップした不二夫は扉を蹴り倒すどころか、粉々にしたって感じだった。
 その近くにいたメガネは扉の下敷きになって、更に言うと破片が体中に刺さっていた。

 ほこりの向こうに黒い闘気をまとった男が目を黄色に光らせていた、ように見えた。
 こえ―――――!!!超こえ――――――――!!!
 小さい時から一緒にいた僕がそう感じるくらいだから残りの二人がどう思ったなんか僕にははかりしれない。

 不二夫はまず埃の中突進してきて、茶髪にラリアットをかました。
「うぐっ!!」
 一瞬の間に、茶髪は床に落ちた。そしてそのままの勢いで僕を連れ出した男にドロップキックを繰り出し、ふらついた男の背後にまわりアルゼンチン・バックブリーカー。
「うぎゃぁっ!」
 もうそれで男は完全にダウンだ。
 っていうかお前どんだけつえぇんだよ!!

 フシューフシューと妙な息遣いをしている不二夫はぐるんと首を回して僕を見てきた。
 ドキリと心臓がばくつく。
 やばい、絶対怒られる。不二夫の呼び出しを無視したのなんておばあちゃんの忌引き以来だ。風邪の時だってちゃんと行くのにっ!
 不二夫は無言で僕の元に駆け寄り、口に入っていたハンカチを取り出した。
「……冬真」
「ハイィィ!!」
 キタァァァ!!ラスボス!!!
 心臓がばくばく鳴っていて、異常に高い声がでた。

「大丈夫か?」

 耳を疑った。
「だだだだ、大丈夫であります!」
「なんだよ、その言葉遣い」
 不二夫がムッと口を尖らす。
 だって不二夫が僕を気遣う言葉なんて言うはずがない。今のは聞き間違いに違いない。
 不二夫は僕の手を拘束しているベルトもはずしてくれた。何、なんか優しい?いや、これは幻覚に違いない。
そしてその辺に落ちている僕のパンツも拾ってきてくれた。え?だから何?何、そのいたれりつくせりな感じ?

「お、おお怒ってないの?不二夫?」

 震えた声で僕が聞くと、不二夫が変な顔をした。
「何で怒るんだよ」
「だって呼び出されても行かなかったから……」
「この状態でどうやって来るんだよ……」
 不二夫の呆れた声に僕はびっくりした。なんでこんなに物分りいいの?いつものジャイアニズムはどこに?
 こんなことされると、僕…。いつもとなんだか違う感情が芽生えてくる。

 と、そこで重要な事を思い出した。
「あ、そうだ!プリクラ!」
「はぁ?」
「そいつ、あの時のプリクラ拾ったって言ってて!取り返さなきゃ!」
 不二夫が変な顔をする。
「お前、それ取り返す為にノコノコついてきたのか?」
「当たり前だろ!」
 大声でそう答えた後ハッとした。
 やばい、今度こそやっぱり怒られる。確かに軽率だったし今思うと馬鹿だったと思うけど、あんなヤバイ奴らについていった僕もいけなかった!殴られる!!
 と思ったら。

「そっか。すまなかったな」

 ゑ――――――――――――――!!!どうしちゃったの、不二夫!!
 びっくりした。だって、謝られた。
 青天の霹靂。真夏に豪雪。とにかくありえない。

「ふ、不二夫、どうしちゃったの?なんで僕のこと怒らないの?」
「はぁ?なんでお前の事怒るんだよ?」
「え、だって……」
「お前は悪くねーよ。悪いのはこいつらだろ?人のモノ、盗みやがって」
「人のモノって……」
 それって僕のこと?僕ってばいつのまに不二夫のモノに!?
「なんだよ?たとえば自分のチャリ盗まれたら、チャリ泥棒自分で探して半殺しするのは当たり前だろ?チャリには何の罪は無いだろうが。しいて言えば俺の管理が悪かったかもしれないっていうか……」
 え?しかもなんか反省してる?っていうかチャリ=僕?何、その例え。どういう理論?
 しかも泥棒自分で半殺しにするって……。
「いや、そこは警察に頼もうよ……」
「馬鹿!大事なもん盗まれたのに自分でやり返さなきゃ意味ねーだろっ!」
「だだだ大事なもん!?」
 それって僕のこと!?
 不二夫の言葉に僕の顔は赤くなってしまった。
 な、なんでだろう。いつもの身勝手な言葉なはずなのに。こんな風になったことなんて無いのに……。
 だ、だって今日の不二夫はなんだか優しくて。僕のこと、怒らなくて。
 そんなことされたら、僕……。

「……悪かったよ。本当」

 いつも苛めてくる不二夫の手が僕の頭を撫でる。
 何コレ?何コレ?
 心拍数が急上昇してる…。僕は咄嗟に不二夫の瞳から目をそらした。

 ドキドキしたまま、僕は不二夫がかき集めてきてくれた制服をのろのろと着た。頭の中ではナニコレナニコレとずっと繰り返している。
 その間、不二夫は壊れた扉を背に変態トリオを全裸にして記念撮影をしていた。
 って何してるんだよ、不二夫!?
「よし!」
 満足げな不二夫を見て、僕はなんだか変態鬼畜エロトリオに同情した。不二夫のあの姿を見てしまったからには、これからはきっと下僕生活だ。可哀想に。


 不二夫は携帯をしまうとふと思い出したように男のポケットを漁りだした。
 そうだ!プリクラ!
 不二夫は最初に会った男のポケットの中にプリクラを見つけると、それを自分の胸ポケットにしまった。
 ちょ、ちょっと!!

「不二夫、ちょっと待ってよ!!」

 やっと制服にちゃんと着替えられた僕は不二夫に駆け寄った。
 不二夫のポケットからプリクラを取り出そうとする。けれどその手を掴まれた。
「何?」
「だ、だって!もとはといえば不二夫がプリクラ落としたのがいけないんじゃん!僕が持ってるからかして!!」
「はぁ!?やなこった。これは俺のだっつーの」
「っていうかそういえば600円結局僕が払ったままじゃないか!!お金、返してよ!!」
 僕がぎゃーぎゃーと文句を言い出したら、不二夫はめんどくさそうに僕を見た。
 な、なに!?今日の不二夫は別に怖くないんだからな!!そう思って睨み返すと、不二夫が突然かがんできた。不二夫の影が僕の顔に落ちた、と思ったら唇が重なっていた。
「んんん〜〜〜!!」
 不二夫の舌が歯列をなぞって侵入してくる。絡まりあう舌が淫靡な音を立てる。
 ああ、力が抜けてくる。もうだめ。コレだめ。
 しかもちらっと目を開けてみれば、今日の不二夫はなんかかっこいいし。
 そんな顔でキスされたら、僕、もう……。

 唇が離れて、ぼぉっとした顔で不二夫を見上げると、不二夫はにやりと笑った。
「変な顔」
「へ、へへへ変な顔で悪かったな!」
 赤い顔のままで答えてしまった。
 っていうか何。そんなこと言われても僕、なんか不二夫のこといつもみたいに罵れない。心の中でさえ。なにこれなにこれ。

 不二夫の顔が見れなくて視線を外したら不二夫のポケットが見えた。プリクラが少しだけ見えている。
「あ、プリクラ!」
「ちっ、気付いたか」
 何?誤魔化す為にキスしたの!?ひどい!
 という僕の心はまるで乙女そのもので。
「返して!」
「やだね」
 ぴしゃりとそう言い放つと、不二夫は歩き出してしまった。それを僕が慌てて追いかける。
 資材室には全裸の男たちが三人、置き去り。やぶれたドアは校舎の隅だったせいで誰も気付いていない。

「プリクラ、僕がお金払ったんだから僕のだよ!返して!」
 僕がそれでも不二夫につきまとって言うと、不二夫がぴたりと歩をとめた。
 振り返ると同時にコツンとおでこをつつかれた。

「馬鹿。お前のものは俺のものだろ?」

 ジャイアニズムそのものの言葉を言われて僕はウッと黙ってしまった。そんな当然のように言われてしまったら反論ができないじゃないか。

「……ついでにお前も俺のものだけどな」

 あれ?今大事な事付け足さなかった?

 また歩き出してしまった不二夫を僕が追う。プリクラのことなんかスコンと忘れてしまった僕は赤い頬のまま不二夫の後姿を見つめる。
 結局いつものような感じになってしまったけど、何かがやっぱり違う。
 不二夫の背中はこんなに大きかったっけ?男らしかったっけ?
 そんな風に思いながら拳を小さく握り締めた。ドキドキしている鼓動の音がうるさかった。
 でもなんだか悪くない。うん、悪くないんだ。
 こういう感情ってなんていうんだっけ?

   ……ああ、そうか。

 それを理解した僕は不二夫の後を小走りで追いかけた。





 もしも、アインシュタインに会ったら僕なりの言葉を教えてあげたいと思う。


『不二夫は他の人に対してはそうでもないのに、僕に対してだけ意地悪かもしれない。
 ところが、そんな風に扱われているのになんだかそれがくすぐったいようで嬉しいような僕がいるわけで。ちょっと前の嫌がっていた僕とは大違い。別に苛められるのが嫌じゃなくなったんだ。

 それが僕の恋というものらしいですよ。』


 ……なんちゃって!恥ずかしい!




おわり




副題〜冬真君の恋の芽生編〜。不二夫の方は自分の恋心を自覚しているわけではないのですがきっと『冬真のものはおれのもの!冬真のバックバージンも俺のもの!』くらいは考えていると思う。
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敬愛するアインシュタインと77777のキリリクをしてくださったももぐみ様に捧げます。(なんてものを捧げてしまったのだろう……) 俺様攻めで最後はあまあまとのことでしたが、うん、私の中では最後あまあまらしいです。ハハハ。

written by Chiri(12/17/2007)